AOジョコを倒すなら4R?

こんにちは。

本来は1ヶ月前ぐらいに投稿するつもりだったのですが、2月は唐突にやりたくなったPSのゲームにドハマりしてしまい、7割ぐらい書き上げた状態のまま放置して1ヶ月が過ぎてしまいました()。執筆意欲のピークもとうに過ぎ去ってしまったのでこのままお蔵入りしそうになりましたが、なんとか踏みとどまって書き上げました。

もう間が空きましたが、みなさんは今年の全豪の結果をどう捉えているでしょうか。色々な意見があると思いますが、私は正直「期待外れだった」というのが素直な感想です。

昨年からハードコートで勝ち続け、今やハードコートでは敵なし状態であったメドベージェフであれば、いくら全豪ジョコビッチが相手といっても、最低限死闘は繰り広げるだろうとは思っていましたし、場合によってはかなり一方的に勝つのではないかとさえ思っていました。ですが蓋を開けてみたらあの結果です。

戦前の予想は私含めてメドベージェフを推す声は多く、全仏で決勝前に「今回の〇〇(ティエム、ジョコビッチ)ならナダルに勝てるかもしれない」と言われてきたのと似ています。ただ、全仏の場合は「そうは言ってもまあ結局ナダルだろう」という声もそれなりにありましたが、今回の全豪に関しては「そうは言ってもまあ結局ジョコビッチだろう」という声は全仏ほどはありませんでした。フリッツに負けそうになりましたしね。

2019年に辛い敗北を喫したチチパスは「あの時もこんな感じの空気だったけど決勝はああいう結果になったから今回もどうなるかはわからない」と、今回の結果を半分予想できていましたが、あくまで「何が起こっても不思議ではない」といった程度のニュアンスであって、ジョコビッチの圧勝だけを予想していたわけではないはずです。

ジョコビッチは今回で全豪9回目の優勝となり、同一GSでの優勝数でナダルの全仏13回に次ぐ単独2位となりました。ウィンブルドン優勝8回で2位タイだったフェデラーを1回引き離しました。今回の結果を踏まえると、来年10回目の優勝というのも現実味を帯びてきました。

ウィンブルドンフェデラーや全仏のナダルと比べると、成績面では一段劣っている印象のある全豪のジョコビッチですが、敗戦の多くは2011年よりも前のもので、2011年以降で言うと2014年(ワウリンカ)、2017年(イストミン)、2018年(チョン)の3回しか負けていません。この期間のGSで言えば、全仏ナダルの1回(2015年。※2016年は試合前棄権なので負け数にはカウントされない)に次ぐ成績です。しかも2017~2018は低迷していたことも考えると、実力負けを喫したのは2014年ぐらいです。そう考えると、調子が並み以上であれば誰にも負けないという、まるで全仏ナダルのような強さです。

もちろん、全仏ナダルの場合はジョコビッチと違って勝ち上がりで苦戦するようなことがない(フルセットになったのは100試合のうちわずか2試合)上に、ジョコビッチよりも5年以上長く無双し続けているので、さすがに同格には扱えません。とは言え、2011年以降に限れば、全仏ナダルの次に盤石と言える存在であることは事実です。今回、これを書くまでは全豪ジョコビッチを過小評価していたということに、自分で気づかされました。

さて、冒頭が大分長くなりましたが、やっと本題に入りたいと思います。

AOジョコを倒すなら4R?

ようやくここでタイトルに触れます。冒頭で述べた通り、2011年以降の全豪ジョコビッチは全仏ナダルに次ぐ存在です。勝ち上がりでは隙を見せたり、あわや敗北というところまで追いつめられたりしますが、決勝ではそれがまるで嘘であるかのように強いテニスをします。なので決勝まで勝ち上がってきたジョコビッチを倒すのは正直無理です。・・・ではどうするか。そうです、決勝まで勝ち上がってくる前に倒せばいいんです。

「そんなことできるなら誰だってそうするわ!」

おっしゃる通りです。ただ過去を振り返ってみると、他のラウンドと比べて4R~QFで苦戦することがやや多いです。これが苦手なGSであれば特におかしくはないのですが、本人が得意としているGSなだけに謎です。今回は最も苦戦したフリッツ戦は4Rより前ですが、4RラオニッチとQFズベレフのどちらも4セットを要しています。SF以降はストレートであることを考えれば、やはりもたつく可能性の高いQFまでで倒す方が難易度的には易しいと言えます。

と、ここまでは統計的なデータを何も示さずに来てしまってので、ここで今回のために調べたデータを以下に示します(割と手集計が多いのでミスがあるかも・・・)。

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BIG4のGS平均セット数

表の意味ですが、BIG4それぞれの各GSの各ラウンド別の平均セット数を集計したものになっています。Set Avg.の左側は勝った試合、右側は負けた試合の平均セット数です。後ほど示しますが、負けた試合については母数が少ないため、勝った試合よりもばらつきの影響を大きく受けてしまうことを踏まえてご覧ください(母数が1のデータも割と多い)。

個人的に気になった数値については赤塗りつぶし/赤文字で強調していますが、ひとまず本題のジョコビッチの数値について見てみましょう。

4R

QFまでの他のラウンドと比べて、勝った試合の平均セット数がやけに高いです(SF、F並み)。SF、Fの相手(=高確率で上位4シードの誰か)と比べると4Rの相手は数段劣るはずだと考えると、ここで苦戦することが多いということが数字にも表れています。なお、ジョコビッチの苦戦の中でも特に目立っているのが、2013年のワウリンカ戦と2016年のシモン戦の5セットマッチです。特にシモン戦はジョコビッチのUEが100の大台を超えた(ある意味)伝説の試合ですが、続くQFの錦織戦では完全にいつもの精密機械ジョコビッチに戻っていました(錦織クリニック・・・)。

QF

勝った試合で言うと、ジョコビッチは平均セット数が3.1という苦戦とは無縁の数字になっています。負けた試合の平均セット数は4.7と高いですが、比較的万遍なく苦戦している4Rとは違い、QFは二度の死闘(2010年ツォンガと2014年ワウリンカ)の影響を大きく受けているに過ぎません。とは言え、無敗のSF以降と比べれば、まだ僅かに隙を突くチャンスがあるラウンドだと言えます。

で、結局どうする?

前述の通り、ジョコビッチはSF以降では無敗なので、倒すとすればQFまでです。さらにそのQFまでのうち、明らかに苦戦することの多い4Rが一番の狙い目です。しかし、上位選手はそんな早いラウンドで対戦することはできません。また、下位選手はそもそも実力的にそこまでの強さを持っていないので、苦戦させることはできても勝つところまでいくのはやはり厳しいです(たいてい勝ちビビりして自滅しますしね・・・)。

現実的には、4Rで

・怪我でランクを落としている元トップ10クラスの選手が、ピークを持ってきて最高のプレーをする(リオ五輪デルポトロのイメージ)。

・急成長中の若手が勢いに任せて頑張る。

・(非若手の)ダークホースが生涯最高のプレーをする(2017イストミンのイメージ)。

といったことが起こる必要がありますが、実際にはジョコビッチが意地を見せたり、相手が勝ちビビりを起こしたりして結局ジョコビッチが4Rを切り抜けてきました。全仏ナダルほどとはいかなくても、全豪ジョコビッチもなんだかんだで運を味方につけているのかもしれません。

せっかく集計したので他の選手・GSについてもざっくりと見てみましょう(ここから先は完全に余談)。その前に、上記データの補足データを示しておきます。

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BIG4のGSセット数内訳

見方は先ほどの表と大体同じです。こちらの表はセット数ごとに集計したものになっています。先ほどの表と合わせて眺めてください。

AO

フェデラージョコビッチと比べて、ナダルのフルセット勝率が低いです(ほぼ5割)。直近3試合で全て負けているのが大きく響いています(2017年対フェデラー、2018年対チリッチ、2021年対チチパス)。特に今年の対チチパスについては、ナダルのキャリアでも過去1回しかなかった2セットアップからの大逆転負け(その1回は2015年のUO対フォニーニ)という衝撃的な負け方なので、観てる側にとってはかなりくるものがありました・・・。ただそれ以前を振り返ってみると、2009年の対ベルダスコ・対フェデラー、2012年の対ジョコビッチといった、記憶に残る名勝負を繰り広げていただけに、近年の結果にはもどかしさで一杯です(記憶に残るという意味では2017年対フェデラーも含めるべきですね)。

ちなみに、ジョコビッチが勝ちながらももたつくことの多い4Rですが、残りの3人は若かりし頃に強敵と対峙して敗れはしたものの、フルセットまではもつれているので、負けた試合のセット取得数が前後のラウンドよりも高い数字になっています。

RG

今さら分析するまでもないですが、ナダルが異次元の強さを誇っています。勝った試合におけるSFまでの平均セット数はなんと3.3以下です。決勝については、13回も戦っているにもかかわらず平均セット数は3.5となっており、2年に1回セットをとられるかどうかというペースです(逆に言えば、決勝にもかかわらず2年に1回はストレート勝利ということです)。また、全ラウンドを通じてフルセットにもつれたのはわずか2回(2011年対イズナーと2013年対ジョコビッチ)だけというのも驚異的です。

ナダルのせいで過小評価されがちなクレーのフェデラーですが、全仏での成績は両極端です。フルセットマッチで6勝1敗という粘り強さを発揮している一方で、ストレートでの敗北数が10というは今回の集計においては最多です。ただ、この10のうちの半分はキャリア初期(2000~2004年)のものなので、実際にはなす術なく一方的に負けるということは稀です。残りの半分については、2008年対ナダル、2012年対ジョコビッチ、2013年対ツォンガ、2015年対ワウリンカ、2019年対ナダルなので、下位選手相手にまさかのストレート負けということはありませんでした。

ジョコビッチは3Rの平均セット数がやや高くなっています。4~5セットにもつれていることが多いのは、本来4R以降で当たるような選手と3Rで当たっている場合が多いです(デルポトロ、チリッチ、シュワルツマン、アグー)。

WB

フェデラー意外と勝負弱いです。フルセットでの成績が7勝7敗の五分です。ただ、決勝では負けた試合でも平均4.8セットとほぼフルセットまでもつれているので、名勝負にはなりやすいです。ちなみに決勝4敗はナダル(2008年)とジョコビッチ(2014年、2015年、2019年)で、特にジョコビッチ相手には3連敗しているので、フェデラーファンにとっては完全にトラウマですね・・・。逆にそのジョコビッチは極端に勝負強く、フルセットでの成績は脅威の9勝1敗です。

ナダルは自身の他のGSでの数字や他の3人の数字と比べると、勝った試合でのセット数がアーリーラウンドではやや高い数字になっています。

UO

優勝は若い頃だけなこともあって、勝った試合でのフェデラーのセット数が3.4とかなり小さい数字になっています。また、他3人と比べてもストレート勝利の割合がかなり高めです。

勝った試合でフルセットまでもつれることが一番少ないナダルですが、フルセット勝率自体はよくありません(3勝2敗)。この5試合のうち4試合(2勝2敗)は2015年以降なので、なんと2014年まではフルセットの試合はたったの1試合(2004年)のみでした。つまり、プロデビューしてから2014年までのGSにおいては、RGよりもUOの方がフルセットの試合が少なかったということになります。まあ、RGの場合はあれだけの試合数をこなしている上に、決勝での数字を含めた上での結果なので次元が違うんですけどね(逆にUOは怪我で出ていないことも多いですしね)。

アーリーラウンドの勝ち試合でやけに苦戦しているのがマレーです。他の3人のように特定の期間(主に若い頃)に偏っているということもなく、キャリア全体で割と万遍なく苦戦しています。フルセット勝率自体は高い(8勝2敗)ものの、試合数の割にはフルセットの試合が多いと言うのも特徴です(マレーらしいと言えばマレーらしい)。

あとがき

というわけで、なんとか書き上げることができました。若手がハードを得意としていることもあって、ジョコビッチがGSで優勝数を稼ぐのは正直もうキツいだろうと思っていました。ただ今回の結果を見た感じだと、AOでまだ1~2回ぐらい上積みできそうですし、若手が揃って苦手とするウィンブルドンの最有力候補でもあるので、なんだかんだでフェデラーナダルと同じ20には並びそうではあります。となると、全仏はほぼ確定のナダルが、全仏以外のGSであと1~2回優勝できるかどうかが鍵となってきそうです。あるいは全仏だけに集中してあと5年ぐらい優勝できるのであれば話は変わってきますが、フェデラージョコビッチと違い、極端に試合数を絞るということをあまりしたくないナダルがそのような偏った戦略をとるとは思えません。GS歴代最多優勝の行方がどうなるのか、まだまだ予想が難しいです。