格上・格下という表現について

みなさんこんにちは。

ちょっと前(と言いながらもう5ヶ月前ですが・・・)のネタをもう少し掘り下げるのが今回の内容です。

主にマスコミへの苦言提言的な意見になるのでやや辛辣な口調になりがちなのですが、できる限りマイルドな口調になるよう善処します()。

まずは以下のツイートをご覧ください。

 それに対する私のツイートが次の通りです。

 また、これらのツイートよりもさらに過去に同じようなツイートをしています。

主張したいことの大半は以上です。お時間のない方はここまでで結構です。ご清聴ありがとうございました。

・・・と冗談はさておき、今回はテニスにおける「格上・格下」という表現について、私の意見をもう少し詳しく述べたいと思います。

マスコミの“世界ランク好きすぎ”問題

テニスに限った話ではありませんが、マスコミは多くのスポーツにおいて世界ランクに過度に拘ります。また、我々一般市民も、自身が詳しくないスポーツについては世界ランクを絶対的なものだと考えてしまいがちです(これは私自身にも当てはまります)。

よく出てくる世界ランクと言えばサッカーでしょうか。

ワールドカップのたびに、日本の世界ランクと対戦国の世界ランクを比較しては「日本の方が世界ランクが上だから有利だ(下だから不利だ)」といった報道がなされます。

ただ、「その世界ランク、どうやって決まっているのか知っていますか?」と質問されたら答えられますか?

私はサッカーには疎いので当然答えられませんが、意外と答えられない方が多いのではないでしょうか?

早速ウィキペディア先生に聞いてみたのですが、人に説明できるようになるほど理解するのには時間がかかりそうなのでリンクだけ貼っておきます(単に面倒くさくて読む気にならなかっただけ)

ja.wikipedia.org

この世界ランクの決め方(および信頼性)を理解しているのであれば、世界ランク重視の報道に流されることはないでしょう。

ここまでは世界ランクにしか触れてきませんでしたが、世界ランクと同様にマスコミが大好きな表現であり、我々をミスリードする表現がもう一つあります。

マスコミの“格上/格下好きすぎ”問題

再びサッカーで考えてみましょう。

先ほどは世界ランクを比較して「有利だ/不利だ」ということを述べましたが、「日本の方が格上だから有利だ(格下だから不利だ)」といった報道もよく耳にしませんか?

ここでも同様に考えてほしいのですが、格上/格下ってどうやって決めているのでしょうか?

恐らく、日本と比べて世界ランクが上なのか/下なのかによって、格上/格下の判断を下しているのではないかと思います。

私はサッカーには詳しくないので、サッカーにおいて格上/格下という表現がどの程度適切であるのかはわかりません。

ですが、テニスについては簡単に格上/格下という表現を使えるものではないということを是非とも知っていただきたいです。

テニスにおける世界ランク

まずはテニスにおける世界ランクの決め方について簡単に説明します。

 ①大会の結果(どれだけ勝ち進んだか)によってポイントが決まる

 ②ポイントの有効期限は1年

 ③直近1年での獲得ポイントの多い選手から順に1位、2位、・・・となる

以下補足

グランドスラムでは優勝すると2000、準優勝で1200、ベスト4で720、ベスト8で360、・・・、といった具合に、マスターズでは優勝で1000、準優勝で600、ベスト4で360、ベスト8で180、・・・、といった具合になります。予選を勝ち上がった場合にはさらに別でポイントがもらえます。

②たとえば2019/11/4時点での総獲得ポイントは、2018/11/5~2019/11/3の期間に獲得したポイントの合計になります。有効期限は1年となっていますが、年始で一斉に0ポイントにリセットされるというわけではありません。

③1週間単位で計算されるので、点差の少ない選手同士だと毎週のようにランキングが入れ替わることもあります。

※サッカーのように、対戦相手の強さによって得られるポイントが変わるということはありません。決勝の相手が1位であろうが10位であろうが100位であろうが、いずれも得られるポイントは同じです。

詳しく知りたい方はウィキペディア先生に聞いて下さい(丸投げ)。

ja.wikipedia.org

ここで注目してほしいのは、ベスト4以下のポイントについてです。

先ほど補足で優勝だと〇〇ポイント、準優勝だと〇〇ポイント、・・・という説明をしたのですが、ベスト4のポイントは準決勝で敗れた2人の選手両方がもらうことができます。同様に、ベスト8のポイントは準々決勝で敗れた4人の選手全員がもらうことができます。

ベスト8から先は省略しますが、要は「1つの大会では同じポイントを獲得することができる選手が複数いる(優勝と準優勝は除く)」ということです。

テニスの世界ランクにおいてこれは重要なことでして、序列としては

 

優勝>準優勝

       >ベスト4の一方=ベスト4のもう一方

       >ベスト8(1)=ベスト8(2)=ベスト8(3)=ベスト8(4)

       >ベスト16(1)=・・・

 

ということになります。

仮にですが、全ての大会での成績が同じである場合、優勝した選手が世界ランク1位、準優勝した選手が2位になるのはわかると思います。ですが、3位と4位の2選手は同ポイントですし、5~8位の選手も4人とも同ポイントになります。

「全ての大会での成績が同じであるという仮定がおかしいのでは?」と思う方がいると思います。実際、この仮定は現実的ではありません。ただ、何の脈絡もなく突然現れた仮定ではありません。「全ての大会での成績が同じである」という仮定は、「世界ランクによって勝敗が決まる(2選手が試合をした時、世界ランクが上位の選手が絶対に勝つ)」という仮定です。この辺の議論については前回の投稿をご覧になってください。

dhi-zu.hatenablog.comトーナメントという形式をとっている以上、5~8位の選手同士で戦おうとすると、自身よりも上位の選手(1~4位)に勝たなければいけません。しかし、「世界ランクが上位の選手が絶対に勝つ」という仮定の下ではこれは起こりえません。すなわち、5~8位の選手間で試合を行うことはできないということになります。

となると、直接対決がなく、同じ大会成績である5~8位の選手達は同列の順位であるとみなせます。同様に、9~16位の選手達も同列、17~32位の選手達も同列であるとみなせます。このように、同列の順位とみなせる選手の数は大雑把に2^n(2のn乗:2, 4, 8, 16, 32, 64,・・・)となります。

実際には世界ランク1位の選手だって負けますし、同列の順位帯の選手同士でも大会成績は違ってきます。5~8位の選手同士や、9~16位の選手同士での対戦もあります。また、そもそも出場する大会数も違ったりするので、同じポイントになることはまずありません(世界ランク100位以下になってくると同ポイントの選手が現れてきますが)。

ただ、一般的に同列の順位の選手同士では、対戦するその日の状況(調子やコート・大会の種類、天候など)によって勝敗が変わる程度には、実力の差はありません。また、世界ランクが下がるにつれて下位選手に勝つという確実性も下がるので、30位ぐらいの選手が50位ぐらいの選手に負けるということも割とよくあります。

このような理由から、テニスにおいて世界ランクは絶対的なものではないのです。1年間安定して世界ランク通りの強さを発揮するのはトップ10ぐらいと言っても過言ではありません。何より、個人スポーツなので選手同士の相性も大きく影響しますし・・・。

もう一点補足すると、テニスの世界ランク(を決めるポイント)の有効期限は1年なので、怪我などによって長期離脱をするとあっという間に世界ランクは下がります。逆に言うと、トップ選手が長期離脱によって世界ランクを大きく下げたものの、復帰して状態が上がってくると、強いのに世界ランクが低いというランキング詐欺が起こります(一般的には、世界ランクが高い割に強くはないという選手に対して使われるのがランキング詐欺という言葉なので、強いのに世界ランクが低い場合には逆ランキング詐欺なんて言われます)

この逆ランキング詐欺の代表的な例がデルポトロという選手です。詳しくは(略)。

ja.wikipedia.orgリオ五輪での話になりますが、当時デルポトロは長期離脱から復帰してきているという状況であり、リオ五輪開幕時点での世界ランクは141位です。そんなデルポトロは1回戦で当時1位のジョコビッチと対戦し、なんとジョコビッチに勝ちました。そのままの勢いで勝ち進み、準決勝では当時5位のナダルにも勝ち、決勝に進出します。ナダルとの試合が死闘だったこともあり、決勝では当時2位のマレーに負けてしまいますが、みごと銀メダルを獲得します。

テニスに詳しい方であればデルポトロが元々強い選手であることは当然知っていましたし、世界ランクが141位まで落ちていたとは言え、怪我が癒えればトップ10はもちろん、調子次第ではBIG4にすら勝てる選手だということもわかっていました。ただ、そういった事情を知らずに世界ランクだけで判断すると、「なんで141位なのにこんなに強いんだ?」と思ってしまうわけです。

さすがにデルポトロの例は極端ではありますが、テニスの場合、大なり小なりこのような(逆)ランキング詐欺はよくあります。このようなこともあるので、テニスの世界ランクは絶対的なものではないということを理解してください。

テニスにおける格上/格下

世界ランクの項がうまくまとまらず長くなりましたが、ようやく格に関する話に入ります。

サッカーの例のところで書きましたが、一般的には「二者の世界ランクが上なのか下なのかによって、格上/格下の判断を下している」と思います。 ところが前項で長々と書いた通り、テニスにおいては、世界ランクだけに基づいて二者の比較を行ったところで、明確に優劣をつけることは難しいです。

そこで私が主張したいことが以下の通りです。

 

・選手の格
実績(通算成績)に基づくものであって、議論時の世界ランクはあまり関係ない。
・選手の実力
→議論時の世界ランクに基づくものであって、実績はあまり関係ない。

 

実績(通算成績)については、主に優勝数や長期的に見た世界ランクや自己最高順位などに基づいて決めます。特に重視されるのはグランドスラムの優勝回数です。

現役時代を見ている選手同士の比較であれば、グランドスラム以外の大会での結果についても知っているので細かく比較することができます。一方で、現役時代を見たことがないような選手については当然詳しくはないですし、当時の(ランキング)環境などもわからないため、細かく比較することができません。かくいう私も、BIG4以前のトッププレイヤーはウィキペディアなどで見た程度のことしか知りませんので、細かい成績などについては詳しくありません。

ところが、テニス界では選手も観客もグランドスラム主義なので、まずはグランドスラムの成績から考えてしまいます。特に昔の選手については、(古ければ古いほど)グランドスラム以外の成績に注目されることはあまりないです。そうした背景から、選手の格を議論するにあたってはグランドスラムが最重要項目となります。

BIG4のうちフェデラーナダルジョコビッチの3人は、かつてグランドスラム優勝回数歴代1位であったサンプラスの14回を超えていることもあって、歴代最強議論になると、この3人以外は大抵議論の余地すらなく弾かれてしまいます。ちなみに残りの1人のマレーですが、優勝14回のサンプラスよりも通算勝率が高いにもかかわらず、残りの3人のせいで優勝を阻まれ続けたこともあって、例外的にグランドスラム優勝回数以外の部分もかなり考慮されています(ただ、何十年後かになってもそうであるかはわかりません)。

ではBIG4以外の現役(一部既に引退)選手についてはどうなのかと言いますと、

 

ワウリンカ(3)>デルポトロ(1)>チリッチ(1)>ベルディヒ=フェレール>錦織

 

というのが一般的な(そして私も)格の序列になります(カッコ内の数字はグランドスラム優勝回数)。

デルポトロとチリッチの差についてですが、これはグランドスラム以外での成績も考慮した結果です。デルポトロもチリッチも、グランドスラムの次にグレードの高い大会であるマスターズでも優勝しているのでその点では互角です。ただ、デルポトロは五輪でメダルを2回(銅と銀)とっていることや、通算勝率がチリッチよりも高いことなどの点で優れているので、このような序列になっています。

ベルディヒフェレールと錦織の差ですが、この3人はグランドスラムでの優勝はなく、全員自己ベストは準優勝であるという点は同じです。ただ、ベルディヒフェレールはマスターズでの優勝経験があるため、錦織よりも序列が上になっています。あとはベルディヒフェレールの方がトップ10にいた期間が長いという点でも上になっています。ちなみに、錦織は上記の選手のうち、デルポトロ以外の選手には通算勝率で勝っています(ワウリンカにすら←!!)。それにもかかわらずビッグタイトルをとれていないので、「持っていない選手」などと悲しい目で見られてしまうのです・・・。

「錦織は五輪で銅メダルとってるじゃん!」という意見もあるでしょう。確かに五輪銅は十分な実績ではあるのですが、グランドスラムやマスターズでの優勝と比べるとその価値は正直低いです。実際、過去の五輪メダリストで注目されるのは基本的にのみです。例外的に、グランドスラムで実績のある選手についてのみ、補足的に銀や銅であることが実績として加えられますが、やはり大して重視されません。私もBIG4以外の選手、特に銀や銅の選手についてはほぼ知りません(あえて調べようと思ったこともないです)。とは言え、グランドスラムやマスターズでの優勝がない選手の中では、(歴代で見ても)錦織の格は最も高いと言っても過言ではないと思います(それが喜ぶべきことであるのかはさておき)

また、格を決める前提として、ある程度の年数が経過している選手であるということも重要です。ここ2,3年ぐらいの間に若手が台頭してきており、一部の選手は既にマスターズで優勝しています。ですが、トップ選手の仲間入りをして間もないので、まだ選手としての格を議論するには至っていません(と言うよりも時期尚早であると言う方が正しい)。

以上のようなこともあって、テニスにおいては単に世界ランクを比べただけで格上/格下という判断を下すことは適切ではありません。また、世界ランクの上/下と格上/格下は別物であるということも理解しておかなければなりません。

格上/格下の定義については人によっても違ってくるので、私とは異なる決め方をしている人も当然います。これと言った正解はないので、私の考える格上/格下も正しいとは限りません。

逆に言えば、人によって言葉の定義が変わる言葉は極力使わない方がよいということです。先ほどは説明のためにあえて具体的に何人かの選手の格を比較してみましたが、普段の私はほとんど格上/格下という言葉は使いません。使うとすれば、誰がどう見てもその差が明らかな場合のみです。それこそ、「BIG4とその他の選手」というぐらい明確な場合にしか使いません。

 

ここまで7000字ぐらいかけて語ってきましたが、ようやく結論です。

 

・報道が職業であるマスコミならその世界ランクの仕組みぐらい理解しろ

・マスコミは安易に格上/格下という言葉を使うな

・マスコミは一般市民を誤解させるような表現をするな

 

以上です。最後についてはテニス以外のことにも当てはまりますけどね・・・。

あとがき

 前回「もうこんな時間のかかるものは書かない!」と言いましたが、残念ながら嘘でした。こんなはずではなかった。

前回と違ってデータ的なものがないので、「自分の考えを書き連ねるだけだし楽勝っしょ!」なんて油断していたものの、いざ書き始めると書きたいことがあれこれ散らかって収集がつきませんね(国語が苦手なのはこういうところに表れるんだなあ・・・)。

いつになるかはわかりませんが、次回以降のネタがもう1つあります。おそらく今回と同じように、書き始めたら全然まとまらなくて苦しむ姿が容易に想像できるので既に腰が重いです。

ただそのネタの前として、今年のテニス振り返りの方が先に執筆することになるとは思います。テニス振り返りについては、テニスが詳しい人向けという前提になるので前回や今回ほど補足する必要がないので楽(なはず・・・)だと思います。

 

それではまた次回?